第711回 図々しい奴
令和七年十月(2025)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷
クレイジーキャッツの谷啓は芸名の由来ダニー・ケイの『虹をつかむ男』へのオマージュ『空想天国』などでユニークな個性を発揮する。私が一番好きな主演作は『クレージーだよ奇想天外』の宇宙人。今回、ラピュタ阿佐ヶ谷の瀬川昌治特集で、谷啓主演の東映の人情喜劇『図々しい奴』『続図々しい奴』を観ることができた。
柴田錬三郎の原作小説は最初一九六一年に松竹で杉浦直樹主演作で作られ、一九六三年に丸井太郎主演のTVドラマになった。TV版で青島幸男作詞の主題歌を歌ったのが谷啓で、当時小学生だった私は「図々しい奴と~人は言うけど~」という歌詞をかすかに憶えている。このドラマはヒットし、一九六四年一月に東映で再映画化。主演の戸田切人役は丸井太郎ではなく谷啓となり、同年六月にほぼ同じキャストで『続図々しい奴』として続き、完結する。映画版の主題歌もTVと同じく谷啓だった。
時代設定は戦前の昭和六年から終戦直後まで。岡山の城下町で母を亡くした小学生の切人がたったひとりで母親を埋葬しようとして、たまたま城主の末裔の伊勢田直政と出会い、華族の若様と知らずに埋葬を手伝わせ、家で貧しい食事を振舞う。切人は将来金持ちになって城を建てたいと夢を語る。意気に感じた直政は天涯孤独の切人を屋敷に引き取り、学費を出して中学に入学させるが、切人は勉学が苦手で五年落第し、直政の伝手で上京して老舗の羊羹屋虎屋に奉公する。直政役はTV版でも直政を演じた杉浦直樹である。
佐久間良子演じる虎屋の娘の美津枝は直政と相思相愛ながら、お互いの気持ちを率直に伝えられず、大学教授と結婚し、やがて離婚。切人は美しい美津枝に憧れるも、恩人の直政と美津枝の気持ちがわかっているので、ふたりを結びつけようとするが、ノブレスオブリージュから社会運動に加担する直政は勘当同然にヨーロッパへ遊学。
直政からもらった資金を元に切人は実業家として成功したり、失敗したり。召集で入隊するところで終わる。『続図々しい奴』では、切人は戦後、失敗や成功を繰り返し、城ならぬ戦災孤児のための施設建設に奮闘する。結局、全然図々しくないいい奴だったのだ。
図々しい奴
1964
監督:瀬川昌治
出演:谷啓、杉浦直樹、佐久間良子、西村晃、浪花千栄子、上原ゆかり、長門裕之、北竜二、中村是好、左卜全、根岸明美、上田吉二郎

