第727回 ICHI
平成二十年十一月(2008)
新宿歌舞伎町 ミラノ1
勝新太郎の『座頭市』シリーズは一九六〇年代に人気があり、その亜流で女座頭市ともいえ
る『めくらのお市』シリーズが一九六九年から七〇年にかけて二年で四本作られた。主演の松
山容子は私が子供の頃、剣劇の名手としてTV時代劇『琴姫七変化』が有名で、レトルトカレ
ーのコマーシャルでも顔が売れていた。
松山容子のめくらのお市が公開されたのは勝新太郎の座頭市全盛時代だが、それとは別に勝
新の没後、二十一世紀に入ってから座頭市の女版がもう一本現れた。綾瀬はるか主演の
『ICHI』である。私が観た新宿歌舞伎町のミラノ1は元々はミラノ座だが、この時期、名
称がミラノ1に変わっている。それでも客席千二百人収容の大スクリーン、ミラノ座に違いな
く、二〇一四年に再びミラノ座の名前に戻って幕を閉じた。
座頭市の女版『ICHI』には、哀しい瞽女の生い立ちが加味されている。瞽女とは三味線
などの楽器を手に、集団で村々を回り、弾き語りで生計を立てる盲目の女芸人である。
盲目の少女市が居合の鍛練をし、瞽女の集団を追い出され、はなれ瞽女となって、かつての
剣の師匠を探して宿場にたどりつく。市と道中で出会う気のいい浪人が意気地なしの弱虫で、
これが宿場の賭場の若親分の誤解から用心棒として雇われ、宿場はずれに巣くう山賊一味と対
決することになる。暴力と恐怖で人をおびえさせ、面白半分に殺し、盗み、犯す凶悪な集団。
孤独だった市は行きがかり上、浪人と心を通わせ、山賊退治に巻きこまれる。仕込み杖を抜
き、相手の気配だけで瞬時に何人もの敵を斬る市。綾瀬はるかの殺陣は舞踊か新体操のように
美しく決まっている。トラウマを抱え刀を抜けない浪人の大沢たかお、極悪非道な山賊の首領
中村獅童、宿場の若親分窪塚洋介など、個性派を脇に綾瀬はるかの凛々しさを全面に出した時
代活劇。綾瀬はるかは全盛期の勝新太郎には及ばなくても、ビートたけしや香取慎吾の座頭市
よりもはるかに好感が持てる。
好きな女優なので、何本も観ているが、気に入った主演作品は『ICHI』以外には『今夜
、ロマンス劇場で』『ひみつのアッコちゃん』と数少なく、助演はともかく、主演作にはあま
り恵まれていないように思う。
ICHI
2008
監督:曽利文彦
出演:綾瀬はるか、大沢たかお、中村獅童、窪塚洋介、柄本明、竹内力、利重剛、杉本哲太

