第729回 インスタント沼

第729回 インスタント沼

平成二十一年十二月(2009)
目黒 目黒シネマ

 私は昔からコメディが大好きだ。人情喜劇、ラブコメディ、スラップスティック、パロディ、社会諷刺、古今東西、なんでも観ている。悪ふざけと思えるギャグもちゃんとした俳優が演じれば、笑えるコメディになる。三木聡監督はそこをきちんと押さえて、とんでもないものを作ってくれるからうれしい。
 タイトルからして馬鹿馬鹿しい『インスタント沼』、出だしからいきなり楽しめる。麻生久美子演じる沈丁花ハナメの八ミリフィルム風紹介。ココア味の麦芽飲料ミロを牛乳でドロドロに溶かし、かき混ぜて飲むのが子供の頃からの日課。いったい何者かと思えば、出版社の女性誌編集長。都会派の女性向雑誌の名前が「HATENA」、ふせえりのライターとラーメン屋の取材に赴くが、売り物が猛臭ニンニクラーメンで店名がスカンク。
 雑誌が売れずオカルト特集まで企画しても、返本の山でとうとう廃刊。ハナメはあっさりと辞職する。と、そこへ警察から連絡。母が池で溺れて昏睡状態。キュウリを餌にした釣り竿がすぐ側に落ちていた。ひょっとして不思議なことを信じる母は河童を釣りに出かけて池に落ちたのではなかろうか。この母が松坂慶子。同時に池で発見されたポストから大量の古い郵便物が出てきて、その中に母が投函したまま配達されなかった手紙。若い頃に恋人に書いたらしい。それによると相手の人物がどうやらハナメの実の父と思われる。
 ハナメが古い手紙の相手を探ると、胡散臭い骨董屋の沈丁花ノブロウ。これが風間杜夫。店名が電球商会。以後、ハナメとノブロウの掛け合いが漫才かコントのように続く。
 店にあるのはおでんの具を表示するわけのわからない装置他、ガラクタばかり。子供の頃に納屋で見つけた折れ釘を宝物にしているハナメと、どこか共通するノブロウ。やっぱり親子だろうか。そこに加わるモヒカン刈のパンクロック電気屋ガス。これが加瀬亮。
 ツタンカーメンの恋愛占いマシンを求める美人客にぞっこんとなるノブロウ。アパートの持ち物をすべて売り払い、そこで骨董屋を始めるハナメ。最後は沈丁花家に代々伝わる蔵の鍵をノブロウから託されたハナメ。それがタイトルのインスタント沼につながる。

インスタント沼
2009
監督:三木聡
出演:麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、相田翔子、笹野高史、ふせえり、白石美帆、温水洋一、宮藤官九郎、渡辺哲、松重豊、岩松了、佐々木すみ江、松坂慶子

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