第701回 少年メリケンサック
平成二十一年十二月(2009)
池袋 新文芸坐
レコード会社の契約社員かんなは新人発掘担当だが、契約が切れて退職というその日に、たまたまインターネットで無茶苦茶に暴れ回るパンクグループを見つけ、社長の時田に見せる。異様な扮装の若者たちが激しく演奏し、わめくように歌い、若い観客が熱狂する過激で反抗的、暴力的なステージの映像。時田は言う。これぞパンクだ。このバンドに連絡取れ。歌も演奏も下手だが、パワーがある。こいつらを売り出そう。おまえは契約社員からディレクターに昇格だ。失業しなくて済んだかんなはリーダー秋夫の連絡先、高円寺のモツ焼き屋を訪ねる。だが、そこにいたのは酒浸りの五十男。ネットに投稿された映像は二十五年前、彼らのバンド少年メリケンサックの解散時の映像だった。
社長に連絡すると、ホームページにアップしたら、アクセス数が十万を超えたので、さっそく全国ツアーで売り出すぞ。すぐに相手を説得して準備しろ。おまえがマネージャーになれという返事。社長はネットの映像が二十五年前のものだとは知らない。仕方なく、社長に年齢は伏せて、かんなはメンバーを集める。仙台で牧畜農家を継いだ秋夫の弟の春夫、ドラムのヤングはモヒカン刈りだが痔持ち、ボーカルのジミーは車椅子で言語不明瞭。冴えない中年オヤジたちはみな人生の敗残者。こんな顔ぶれでうまくいくわけない。
が、秋夫は言う。最後の最後まで嘘をつき通す。それで本番が成功すれば、もう嘘じゃなくなる。奇跡が起きるんだ。その言葉につい乗せられてしまうかんな。最初のステージは名古屋。過激なパンクのネット映像を見て、観客が押し寄せる。が、ライブはあまりに下手すぎてとても聴いていられない。しかし全国ツアーの予定は決められており、中止できない。かんなは実家の回転寿司屋の車にメンバーを乗せ、大阪、広島、仙台と回ることになる。次々とトラブルが続くが、果たして奇跡は起きるのか。
かんなの宮崎あおい、秋夫の佐藤浩市、春夫の木村祐一、ジミーの田口トモロヲ、ヤングの三宅弘城、どれもぴったりでしかもリアル。社長のユースケ・サンタマリア。かんなの恋人のヘナチョコ勝地涼。他にもちょっとした役で大物がたくさん登場する。
少年メリケンサック 2009
監督:宮藤官九郎
出演:宮崎あおい、佐藤浩市、木村祐一、田口トモロヲ、三宅弘城、勝地涼、ユースケ・サンタマリア、ピエール瀧、田辺誠一、哀川翔、烏丸せつこ、中村敦夫、犬塚弘