第708回 イン・ザ・プール

第708回 イン・ザ・プール

平成十九年十一月(2007)
高田馬場 早稲田松竹

 奥田英朗の小説を三木聡監督がギャグ満載で映画化した『イン・ザ・プール』は公開より少し遅れて高田馬場の早稲田松竹で観た。
 実力のある俳優が、計算されたギャグをきちんと演じることのなんと心地よく面白いことか。俳優だけでなく、脚本も演出も玄人でなければ、上質の喜劇は成立しない。
 精神科医と患者。そんな設定を笑いにしていいのかとの良識は、見事に吹き飛ぶ。なにしろ、エキセントリックな医者の伊良部を演じるのが芸達者な松尾スズキ。それだけで成功である。そして、三人の患者の日常。
 二枚目オダギリジョーが演じるサラリーマンの田口は股間が勃起し続けて治まらない陰茎強直症。身をよじりながら病院に行くと、心因性と言われて地下の精神科を指定され、伊良部からさんざん茶化されながらも、快復の目途は立たない。実際にそんな病気があるのかどうか知らないが、オダギリの情けない奮闘努力が笑いを呼ぶ。
 市川実和子のルポライター岩村は強迫神経症で、部屋のガスをちゃんと止めたか、窓の鍵はちゃんと閉めたか、いろんなことが気になって仕事に行く途中、いつも引き返して確認しなければ気がすまない。失敗するたびに心の中でガビーンとつぶやく。おかげで編集長から忠告され、結局、精神科の伊良部を訪ねて、これも冗談のようにからかわれる。
 田辺誠一の大森は会社でのストレスをプールで泳ぐことで発散するプール依存症。仕事の追い込み、部下の失敗、愛人との問題、さらに妻までがストレスとなる。泳げないと禁断症状が出て爆発し、最後に伊良部の精神科を訪ねることになる。
 これに絡むのが岩松了、ふせえり、きたろうで、ギャグのネタは尽きない。
 実は私はこの頃から、TVをまったく観なくなっており、それは今も続いている。TVがいやになった理由はいろいろあるが、芸がないのに人気のあるお笑い芸人を見ても、全然笑えないからだ。そこへいくと、三木聡の『イン・ザ・プール』は大いに笑えた。

イン・ザ・プール
2005
監督:三木聡
出演:松尾スズキ、オダギリジョー、市川実和子、田辺誠一、MAIKO、森本レオ、岩松了、ふせえり、きたろう、三谷昇、ちはる、戸田昌宏、江口のりこ、真木よう子、藤田陽子、中村優子、松岡俊介、田中要次、木下ほうか、綾田俊樹、嶋田久作

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