第713回 宝島

第713回 宝島

令和七年十月(2025)
立川 TOHOシネマズ立川立飛

 真藤順丈の長編小説を映画化した『宝島』は、終戦直後から本土復帰までを描いた沖縄の現代史であり、戦後八十年の今年に観るべき映画であると私は思う。
 かつて、わが国はアメリカと戦争していた。米軍の上陸で沖縄は戦場となり、多数の住民が犠牲となった。敗戦後、米軍統治下となった沖縄には平和も民主主義もなかった。
 主な登場人物は四人。米軍嘉手納基地の倉庫に侵入し、食糧や薬品や衣類を盗み出す若者の集団。リーダーのオンちゃんが永山瑛太、その弟のレイが窪田正孝、オンちゃんの片腕グスクが妻夫木聡、オンちゃんの恋人ヤマコが広瀬すず。
 戦争が終わっても、基地に忍び込み盗品を住民に配ることによって、若き窃盗団はアメリカと戦っていた。そして、一九五二年のある夜、一味は米軍に追われ、散り散りに逃げる。オンちゃんは行方がわからず、逮捕されたレイは刑務所に。やがて数年の後、グスクは刑事になり、米兵の犯罪と向き合いながら、オンちゃんの行方を探っている。出所したレイはやくざ稼業に身を落とし顔役になっている。ヤマコは小学校の先生となる。
 基地周辺では、不良米兵による傷害、強盗、強姦、殺人、飲酒運転のひき逃げなど珍しくもない。グスクは捜査能力を米軍の情報将校に認められ協力するが、犯人が見つかっても沖縄の警察では逮捕できず、祖国に送還が現状だ。さらに歓楽街は米兵の客で潤っていて、基地の雇用で暮らしを立てている住民もいる。
 故障した米軍機がパイロットだけ脱出し、無人のままヤマコが教鞭をとる小学校に突入して、学童や教師が多数死傷するが、米軍からの謝罪はない。ベトナム戦争が始まり、戦争反対と祖国復帰を掲げて運動するヤマコに、やくざのレイが言う。復帰したところで、民主主義はアメリカとヤマトにしかないんだと。そして住民の怒りがコザ暴動となる。
 これは沖縄を描いた映画であり、妻夫木や広瀬や他の出演者たちの沖縄方言が充実して素晴らしい。小学校の教室で風の又三郎を朗読する広瀬の沖縄アクセントが見事だった。
 一九七二年に沖縄は日本に返還されたが、今も米軍基地はそのまま沖縄にある。
宝島
2025
監督:大友啓史
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、中村蒼、瀧内公美、尚玄、木幡竜、奥野瑛太、村田秀亮、デリック・ドーバー、ピエール瀧、栄莉弥、塚本晋也、永山瑛太
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