第715回 リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界
令和七年五月(2025)
日本橋 TOHOシネマズ日本橋
一九七七年、英国郊外の自宅でひとりの老女がインタビューを受ける。アメリカで美貌のファッションモデルとして売り出し、写真家に転じ、第二次大戦末期に報道カメラマンとして最前線で数々の写真を撮影したリー・ミラー。彼女が戦時中の体験を語る。
一九三八年、リー・ミラーは南フランスで詩人や画家など芸術家たちと楽しく過ごしていた。そんな中、ドイツで台頭したヒトラーが熱狂的に支持されるニュース映画が流れ、自由を愛する芸術家たちは嫌悪し、顔をしかめる。ドイツはひどいことになっているが、酒と男と写真が大好きなリーは画家の英国人ローランドと愛し合い、フランスを離れる。
だが、あっという間に世界は戦争に巻き込まれ、ドイツの侵攻を受けたフランスの友人たちの消息はわからず、リーがローランドと暮らす英国も日々の空襲に悩まされる。
ヴォーグ誌で仕事をしていたリーはアメリカから来たライフ誌のジャーナリスト、シャーマンと出会い、自分にできることはなにかと考え、報道カメラマンを志願する。最前線では、どこに行っても死体の山と悪臭、ドイツ兵に凌辱され疲弊した少女、ようやくドイツ軍が撤退するとナチスの協力者として丸坊主にされ晒される若い女性たち、ユダヤ人収容所の惨状。仏独国境近くでヒトラーが滞在していた屋敷の浴槽に浸かり自身を撮るリー。
リーがフランスからヴォーグ誌に電話すると、英国ではドイツの敗戦を大喜びして人々がはしゃいでいる様子。だが、フランスの友人たちの大半はいなくなっている。ナチスが消したのはユダヤ人だけではなく、芸術家も文化人も社会思想家も黒人も老人も病人も気に入らない者は理由をつけて、みんな収容所に送られ、ゴミのように処理された。
人類の敵であったヒトラーが自害し、今が平和であっても、いつまたヒトラーの同類のモンスターが出現するかわからない。扇動され、熱狂的に戦争を支持する狂信者の群れは常に存在する。ひとたび戦争になれば、だれにも止められず、家族も友人も財産も命もなくなり、国さえも滅亡する。そうなってはならない。決して油断はできないのだ。
リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界/Lee
2023 イギリス/公開2025
監督:エレン・クラス
出演:ケイト・ウィンスレット、アンディ・サムバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、マリオン・コティヤール、ジョシュ・オコナー、アンドレア・ライズボロー、ノエミ・メルラン、アリンゼ・ケニ、ヴァンサン・コロンブ

