第719回 カトマンズの恋人
昭和四十六年一月(1971)
滋賀 水口町 水映
一九七〇年の年末から七一年の正月にかけて、高校二年の私は滋賀県の水口町に滞在していた。その町の天満宮で母方の祖父が宮司をしており、冬休みを利用し、私は社務所に寝泊まりしていたのだ。
水口町に水映という洋画二本立ての映画館があり、ちょうどウィリアム・ホールデン主演の『クリスマスツリー』が上映中で、私はアルバート・フィニーのミュージカル『クリスマス・キャロル』と勘違いして観に行った。『クリスマスツリー』はディケンズとはまるきり違う子供が病死する重苦しいお涙映画で、私は期待はずれに大きく落胆した。
そこでがっかりして映画館を出ていれば、私はジェーン・バーキンを観られなかっただろう。水映の二本立て、もう一本が『カトマンズの恋人』だった。
ルノー・ベルレーふんする青年オリビエは都会生活に嫌気がさして、ネパールに行く。母と別れた父がそこでなにかの事業をしているらしく、それを頼っての旅だった。インドと中国の中間にあるネパールの首都カトマンズはヒッピーの聖地で、六十年代後半、権威や体制に背を向けた欧米の若者が多数集い、麻薬とフリーセックスで自由を謳歌していた。
オリビエはヒッピーのグループと知り合い、ジェーンという美女とすぐねんごろになる。すらりと背が高く目がぱっちりのこの美女こそがジェーン・バーキンだった。
ヒッピーのジェーンは麻薬中毒で、かなり症状が悪化しており、オリビエはジェーンを治療するため、父を頼る。父は仏像盗掘一味の下っ端だった。オリビエは彼女を助ける金が必要なので、仕方なく盗掘の手伝いをし、おかげでジェーンは徐々に快復に向かうが、オリビエが留守の間、一味のボスがジェーンに目を付け、再び麻薬漬けにして犯し弄んだため、彼女は絶望して自殺する。そんなストーリーはともかく、高校生の私はスクリーンの中のジェーン・バーキンの美しくセクシーな肢体に魅了された。
憎々しい窃盗団のボスを演じていたセルジュ・ゲンズブールがそのときすでに、バーキンのパートナーだったと知ったのは、ずいぶん後になってからだ。
カトマンズの恋人/Les Chemins de Katomandou
1969 フランス/公開1970
監督:アンドレ・カイヤット
出演:ルノー・ベルレー、ジェーン・バーキン、エルザ・マルティネリ、セルジュ・ゲンズブール、アーレン・ダール、ジャン・ポール・トリブゥ

