第723回 ジョルスン物語
令和八年一月(2026)
渋谷 シネマヴェーラ
和田誠著『お楽しみはこれからだ』が文藝春秋から刊行されたのが一九七五年、当時、映画好きの学生だった私はすぐに購入し、むさぼるように読んだ。映画の名セリフがイラスト入りで紹介されて、見開きで一作品。表紙が『サンセット大通り』のグロリア・スワンソン。本文の一作目が『ジョルスン物語』で、黒人に扮したアル・ジョルスンを演じるラリー・パークス。せりふの「お楽しみはこれからだ」が和田誠の本のタイトルになっている。『サンセット大通り』をはじめ『お熱いのがお好き』『カサブランカ』『舞踏会の手帖』『まぼろしの市街戦』『パリで一緒に』『旅路の果て』などなど。この本のおかげで、名画座や名作上映会を巡り歩いて、どれだけたくさんの古い映画を観たことか。
ところが、「お楽しみはこれからだ」の『ジョルスン物語』がずっと未見のままだったのだ。アル・ジョルスン主演の『ジャズ・シンガー』がサイレントからトーキーへと映画の歴史を変える大きなきっかけになったことは『雨に唄えば』を見て知っていた。
このほど、渋谷のシネマヴェーラのジョセフ・H・ルイス監督の特集上映でようやく『ジョルスン物語』を観ることができた。
映画は十九世紀末のワシントンで始まる。バーレスクの小屋で客をいじって笑いをとっているボードビル芸人のスティーヴ・マーティン。俺にばっかり歌わせて、だれも歌うやつはいないのか。そのとき、客席のひとりの少年が歌いだす。その素晴らしい歌声に満場が静まり、そして大喝采。少年はユダヤ教の合唱団の一員で、名はエイサ・ヨルセン。マーティンはヨルセンの両親を訪ねて、スカウトするが反対される。エイサは家出し、結局両親の許しを得て、マーティンと組んで巡業に回り、アル・ジョルスンの芸名で才能を発揮する。やがて黒人の扮装でのミンストレルショーで一世を風靡、ブロードウェイで大スターとなって主演作が続き、映画『ジャズシンガー』へとつながる。
ジョルスン役をラリー・パークスが演じるが、歌のシーンは当時まだ存命だったアル・ジョルスン本人の吹き替えとのこと。
ジョルスン物語/The Jolson Story
1946 アメリカ/公開1950
監督:アルフレッド・E・グリーン、ジョセフ・H・ルイス
出演:ラリー・パークス、イヴリン・キース、ウィリアム・デマレスト、ビル・グッドウィン、ルドウィッグ・ドナス
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