男はつらいよ フーテンの寅
昭和四十九年五月(1974)
大阪 千日前 弥生座
渥美清が三遊亭歌笑役で主演した『おかしな奴』は三年後の一九六六年十月からフジテレビでドラマ『おもろい夫婦』として放送され、企画と演出のプロデューサー小林俊一は渥美清を山田洋次に引き会わせ、TV版の『男はつらいよ』が作られた。
その後、TVから映画化された初期の『男はつらいよ』では、寅次郎は決して善良ではなく、単純でがさつで自分勝手、気に入らないとすぐ喧嘩する乱暴者で、服装も堅気には見えず、任侠に憧れ、肩で風を切って歩き、周囲から迷惑がられている。
第一作、第二作は山田洋次が監督だが、第四作『新・男はつらいよ』はTV版の演出を手掛けた小林俊一が監督しており、実は小林以外にも『男はつらいよ』を一回だけ撮った監督がいる。第三作『フーテンの寅』の森崎東監督で、森崎はTV版『男はつらいよ』の脚本を何本か手掛け、一九六九年の初監督作『女は度胸』に渥美清が出演している。
森崎監督の『フーテンの寅』では、いい歳をしていつまでもテキ屋でもないだろうと、寅次郎に見合いの話が用意されるが、ぶちこわして叔父と大喧嘩の末、ぷいと柴又を飛び出す。しばらくして叔父夫婦が三重県の湯の山温泉に観光で旅行し、宿泊した旅館の番頭が寅次郎だった。テキ屋の商売で温泉町に来た寅次郎が腹をくだして、厄介になった旅館の美人の女将に一目惚れし、宿賃がないので居残りの下働きをしていたのだ。
寅次郎の片思いは温泉町で笑いものになっているが、当の女将はそれに気づかず親切にするので、有頂天。が、寅次郎の気持ちを知った女将には立派な恋人がいて、結婚も決まっていた。そこで、寅次郎は外から障子越しに別れの挨拶をするが、中にいるのは女中と番頭だけ。寅次郎が温泉町で出会う寝たきりの老香具師、これは将来の寅次郎かもしれない。『フーテンの寅』は映画版第三作だが、TV版で寅さんをあっけなく殺した山田洋次はこのとき、まさか映画のシリーズが何十作も続くとは思ってもいなかっただろう。
森崎東はこの後、森繁久弥の新宿芸能社シリーズ『女は男のふるさとヨ』を撮るが、旅から旅のストリッパー倍賞美津子は、まるで女寅さんだった。
男はつらいよ フーテンの寅
1970
監督:森崎東
出演:渥美清、新珠三千代、倍賞千恵子、森川信、三崎千恵子、前田吟、笠智衆、太宰久雄、香山美子、河原崎建三、花沢徳衛、春川ますみ、野村昭子、悠木千帆、左卜全