第710回 肉体の悪魔(1971)
令和七年十月(2025)
新宿 K‘sシネマ
レイモン・ラディゲの小説『肉体の悪魔』は何度か映画化されており、私が最初に観たのはジェラール・フィリップとミシュリーヌ・プレール主演、クロード・オータン・ララ監督のフランス映画だった。少年が年上の既婚女性と恋をするこの不倫の悲劇は、日本では西村昭五郎監督の日活ロマンポルノ作品にもなっている。
実はラディゲの原作とはまったく別の映画で『肉体の悪魔』という同じタイトルの作品がある。ケン・ラッセル監督、ヴァネッサ・レッドグレイヴとオリヴァー・リード主演、一九七一年のイギリス映画で、高校時代にこの映画のことを知りながら観られず、五十年以上経って、ようやくK‘sシネマ奇想天外映画祭で観ることができた。
時代設定は『三銃士』でお馴染みの十七世紀前半のフランス。いきなりエロティックな『ヴィーナスの誕生』のバーレスク風舞台で始まる。しかもヴィーナスを演じているのが国王ルイ十三世で、ここは宮廷内。枢機卿リシュリューが王に拝謁して、地方都市ルーダンに軍の派遣を要請する。蔓延するペストで死体の山のルーダン。市長が亡くなり、ルーダンの実権を握ったユルバン・グランディエ神父は美男で女好き。女子修道院の院長ジャンヌ・デ・サンジュは市長の葬列を仕切るグランディエを窓から覗き見て憧れるが、自身の醜い体形を恥じ、側にも寄れず、片思いで満たされぬ性欲にもがき苦しむ。
王から派遣された包囲軍は自治権を護るグランディエに抵抗される。プロテスタントとの争いを止め、自由を主張するグランディエは王権にとっても、リシュリューにとっても邪魔である。そこに耳寄りな話。嫉妬でもだえるジャンヌが放心状態で尋問され、グランディエが悪魔だと口走る。悪魔祓いのエクスタシーで騒ぐ尼僧たち。捕縛され、自宅を捜索され、拷問されたグランディエは悪魔と断定され、公衆の前で生きたまま火あぶりとなる。ルーダンの外壁は打ち砕かれ、その向こうに延々と続くプロテスタントの処刑死体。グランディエもジャンヌも実在の人物であり、この物語は実話に基づく。
ヴァネッサ・レッドグレイヴ演じるジャンヌの背中の大きな瘤。昔観たジャン・アヌイの舞台劇『アルデールまたはせむしの聖女』のタイトルをふと連想したが、関連はない。
肉体の悪魔/The Devils
1971 イギリス/公開1971
監督:ケン・ラッセル
出演:ヴァネッサ・レッドグレイヴ、オリヴァー・リード、ダドリー・サットン、ジェマ・ジョーンズ、マーレイ・メルヴィン、ジョージナ・ヘイル、クリストファー・ローグ