第714回 喜劇女の泣きどころ
昭和五十年二月(1975)
大阪 阿倍野 近畿地下劇場
ラピュタ阿佐ヶ谷の瀬川昌治特集で上映中の『喜劇女の泣きどころ』を最初に観たのは、今から五十年前、場所は大阪阿倍野にあった近畿地下劇場。当時大阪で学生だった私は、映画や演劇の情報を網羅した月刊プレイガイドジャーナル誌を片手に、映画館を巡り歩いていた。思えば、五十年経った今でもあまり生活スタイルは変わっていない。
近畿地下劇場は三本立ての映画館で、一本が『女の泣きどころ』、あとの二本はピンク映画。ストリップの踊り子が主役とはいえ、瀬川昌治監督の松竹映画の新作が名もないピンク映画と三本立ての抱き合わせとは。だが、当時の大阪ではATG作品が日活ロマンポルノと二本立てで公開されることも多く、 そこがまた大阪らしく、好ましかった。
四国を巡業中の女剣劇一座でふたりの女優が自殺未遂。座長の駒太夫と弟子の竜子、これが太地喜和子と中川梨絵。駆けつけ助ける救急隊員の藤井、演じるは湯原昌幸。
その後、駒太夫と竜子は剣劇をやめてミス・カルメンとミス・モンローと名乗り、ふたりでストリップのレスビアンショーのコンビで各地を巡業。四国のキャバレーで乱闘騒ぎを起こしたふたり。たまたま一年前に命を助けた藤井が警察から身元引受人を押し付けられ、店の弁償までさせられる。それがきっかけで藤井がふたりのマネージャーとなり、自堕落なふたりをなんとか売り込むが、いろいろご難続きで、くっついたり離れたり。
森崎東監督にストリップの踊り子の芸能社を描いた森繁久弥主演のシリーズがあり、同じ松竹の瀬川昌治監督、太地喜和子主演のストリッパー三部作はおそらくその系列で、『女の泣きどころ』が三作目にあたる。中川梨絵は日活ロマンポルノの主演からATGの『竜馬暗殺』を経て、『女の泣きどころ』で太地喜和子の相手役となった。レスビアンショーの場面では、ふたりが吹き替えなしで堂々と一糸まとわぬ体当たりで演じている。
脇役に財津一郎の刑事、小沢昭一の民俗学者、坂上二郎の演歌歌手、ミヤコ蝶々のアパートの大家、京唄子の芸能社女社長などなど、芸達者がたくさん出ているのも楽しい。
五十年ぶりに思い出の映画を大画面で観られたので、ラピュタ阿佐ヶ谷に感謝。
喜劇女の泣きどころ
1975
監督:瀬川昌治
出演:太地喜和子、中川梨絵、湯原昌幸、財津一郎、坂上二郎、小沢昭一、潤ますみ、ミヤコ蝶々、人見きよし、ビーバー、佐山俊二、鳳啓助、京唄子、園佳也子、谷村昌彦

