第726回 座頭市物語

第726回 座頭市物語

平成四年三月(1992)
高田馬場 パール座

 小学生の頃、私は座頭市を映画で観る前からすでに知っていた。一九六〇年代の日本で、時代劇ファンでなくとも、異色ヒーロー座頭市を知らない人はいなかったと思う。杖をついて街道をよろよろ歩く盲目の按摩が剣の達人で、敵の気配を読み、瞬時に仕込み杖で何人も斬り捨てるのだ。声帯模写の桜井長一郎などがしょっちゅうTVで座頭市を真似ており、子供たちにも人気のあるキャラクターだった。その第一作『座頭市物語』が公開されたのが一九六二年の四月。勝新太郎主演、三隅研次監督、犬塚稔脚本、原作は子母澤寛。
 第一作の時代設定は天保十五年、侠客の飯岡の助五郎と笹川の繁蔵が対立して乱戦する下総利根川の『天保水滸伝』が背景になっている。旅の按摩で渡世人、座頭の市が助五郎を訪ねてやって来る。座頭というのは検校、別当、勾当に次ぐ盲人の位階であり、琵琶法師、鍼灸師、按摩なども座頭と呼ばれる。同じ字で「ざがしら」と読めば芝居の一座の座長の意味になるので、盲人は「ざとう」である。
 助五郎一家に草鞋を脱いだ市が案内されるのが雑魚部屋で、丁半博奕に興じる子分たち。そこで市が勝負に加わり、落語の「看板のピン」で知られるいかさま。子分たちは激怒するが、帰ってきた助五郎が市を持ち上げ、客人として歓迎するので逆らえない。老獪な助五郎は敵対する笹川の繁蔵一家との出入りに備えて市を逗留させるのだ。だが、偶然にも笹川方の浪人、天知茂ふんする平手造酒と市が出会って意気投合する。市は助五郎の汚い手口に嫌気がさして、旅に出ようとするが、胸を患い喀血した平手が出入りに加わるのを知って、引き返す。さて、凄腕のふたりは剣を交えるのだろうか。
 人気シリーズとして毎年続々と作られ、一九七〇年には三船敏郎がゲストの『座頭市と用心棒』が出て、一九七三年まで十二年間に二十五作。その後、TVシリーズに移行する。
 松山容子主演の『めくらのお市』シリーズなど亜流もいくつか現れた。一九八九年に勝新太郎の監督作『座頭市』が自身の最後の主演作となったが振るわず。勝新太郎の没後にビートたけしや香取慎吾が挑戦するも、本家の遺作にさえ到底及ばなかった。

座頭市物語
1962
監督:三隅研次
出演:勝新太郎、万里昌代、島田竜三、三田村元、天知茂、柳永二郎、真城千都世、毛利郁子、南道郎、千葉敏郎、守田学、舟木洋一、丸凡太、市川謹也、尾上栄五郎、山路義人

←飯島一次の『映画に溺れて』へもどる