第69回『江戸の居酒屋 (歴史新書)』(洋泉社新書)

頼迅一郎の新書・専門書ブックレビュー

『江戸の居酒屋 (歴史新書)』
(伊藤善資、洋泉社新書)

『江戸の居酒屋 (歴史新書)』(伊藤善資、洋泉社新書)

「呑兵衛」と書いて何と読むでしょうか。「どんべえ」ではありません。「のんべえ」と読むそうです。文字通り「酒飲み」のことです。
 現在では日本酒は、国際的にも注目されていて、和食の普及と共にさらに需要が高まるかもしれません。そのときは、「お宅」や「かわいい」などのように「のんべえ」もそのまま国際的に通用する日が来るかもしれないですね。
 さて、本書は題名こそ『江戸の居酒屋』ですが、それに先立つ酒の始まりから、江戸時代の居酒屋までを取り上げたものです。
 目次は以下のように「五升」いえいえ「五章」構成となっています。

目次
一章 酒の始まりから居酒屋誕生へ
人類の歴史とともにある「酒」
寺院で造られていた酒
酒造りの基礎知識
二章 江戸の酒と居酒屋
酒屋から居酒屋へ
江戸を席巻した下り酒
三章 居酒屋の風景
居酒屋の様子
居酒屋の酒
四章 居酒屋の肴
江戸っ子の好きな鍋料理
定番になる煮物料理
居酒屋で出される御吸物
刺身が出され酒席が豪華に
五章 江戸は呑み倒れの町
とにかく飲んだ江戸の呑兵衛
将軍や天皇が飲んだ酒
武士たちが飲んだ酒
酒を好んだ変な人たち

 第一章は、酒の始まりから居酒屋誕生までのいわば江戸の居酒屋前史とも呼ぶべき内容ですが、ここで驚くことは、清酒(済んだお酒)が、すでに奈良時代から造られていたことです。「清酒」と書いて「すみさけ」と読んでいたとのこと。
さらに酒造りは、寺院で行われていたようです。奈良興福寺に次ぐ大寺院と知られた菩提山正暦寺(正暦3年(992))創建)は、「16世紀中頃には時代の先端を行く酒造技術を開発」し、それは「南都諸白」と呼ばれました。そのため、正暦寺は、「日本清酒発祥の地」とされています。
室町時代の京の都は、幕府の奨励策もあり酒造業が盛んになります。ほとんど領地を持たない幕府は、そんな酒屋から「酒屋役」という税を取り立てていました。
有名な「柳酒屋」もこの時代の酒屋です。このころは、京や奈良から地方へも酒造技術が伝わり都でも評判になった酒があったようです。
また、本章では酒造りも具体的に紹介されています。

第二章は、江戸の居酒屋を取り上げています。
 酒造業者が杉の葉を球状に作った「志るしの杉玉」は、「酒林」と呼ばれ、元は酒の神に感謝を捧げるものでしたが、やがて「小売り酒販店である清酒屋の店頭にも酒林が下げられ、酒を売っていることを表す看板」となり「江戸時代末には酒屋だけでなく、居酒屋でも吊すように」なったとのこと。
 ちなみに江戸時代の初期は、酒の小売店である「枡酒屋」(請酒屋)の店先で飲んでいました。これを「居酒」と称していました。その繁盛ぶりに目をつけた本格的に酒を飲ませる店が登場し、「居酒」を本業とすることから「居酒屋」になったとのことです。
 周知のように江戸時代は関西からの「下り酒」が主流でした。それがなぜ江戸近郊でも造られるようになったのか、詳しくは本書のこの第二章をお読みください。
 
 第三章は、居酒屋の風景ということで、江戸の居酒屋を様々な形で紹介しています。よく知られているように居酒屋にテーブルはありませんでした。時代劇で見る居酒屋は、創作上の風景です。
そして、チロリと徳利の違いも……。詳しくは、本書第三章をお読み願います。
 
 第四章は、居酒屋の肴を取り上げています。江戸は単身の男性が多く、彼らはよく酒を飲みました。そんな江戸っ子の肴にはどのようなものがあったのでしょうか。ちょっとした料理小説を読むような感じで読み進めてみたい第四章です。

 第五章は、江戸は呑み倒れの町として具体的に歴史上の人物の呑兵衛ぶりを紹介しています。京の着倒れ、大阪の食い倒れ、そして江戸の呑み倒れの様相を味わってください。

 最後に、昨年の第14回日本歴史時代作家協会賞の授賞式&受賞パーティーには、豊島屋という居酒屋さんが駆け付けて祝辞を述べていただきました。
 この豊島屋さんは、江戸時代から続く老舗の酒屋さんでもあります。慶長元年(1596)に鎌倉河岸で創業したといいますから江戸時代と共に歴史を刻んできたのですね。その間、江戸っ子に人気の酒や肴が話題にもなったようです。詳しくは、本書でも紹介されていますので、ぜひどうぞ……。
 なお、豊島屋さんは、「江戸東京モダンの立ち飲み『豊島屋酒店』」を令和2年(2020)に再興しています。
 日本歴史時代作家協会も女子会の2次会で利用させていただきました。場所等は以下のURLを参照願います。

Toshimaya Global | 豊島屋本店
1596年の創業以来、400年以上日本酒の醸造販売をしている豊島屋本店が『江戸東京モダン』をコンセプトとした立ち飲み居酒屋をオープン致しました。まだ豊島屋本店の酒を味わったことのない方は、是非ご試飲ください。
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