第695回 噂の二人
平成五年七月(1993)
銀座 銀座文化
リリアン・ヘルマンの戯曲『子供の時間』を読んだ時は、嘘つき少女のイメージが憎々しい悪意の塊であったのだが、実際に映画を観てみると、まだあどけない子供なのだ。なるほどそうかも知れない。舞台の場合は子供の役でも、若い女優かしっかりした年配の子役が演じるだろうが、映画はリアルなので幼い子役だ。子供の嘘が大きな悲劇に発展するが、この子供はアーサー・ミラーの『るつぼ』に登場するアビゲイルほどの邪悪さはない。むしろ、不幸な誤解や偶然が重なり、事態がどんどん悪くなってしまうのである。
学生時代からの仲良しふたりが女子寄宿学校を共同経営し、軌道に乗り始める。シャーリー・マクレーンのマーサが校長で、オードリー・ヘプバーンのカレンが教師として協力する。他にマーサの叔母も手伝っているが、これは役に立たない。カレンには二年越しの恋人の医師ジョーがいて、マーサはジョーが学校に来ると不機嫌になる。叔母はマーサが男に興味を持たず、カレンとばかり仲良くするのは不自然だとなじる。それを子供が立ち聞きしており、学校をさぼりたくて、祖母に嘘をつく。先生たちは不自然な関係にあると。子供の嘘を信じた老女が同性愛の噂を広めて生徒たちを引き上げさせる。
ふたりは老女の元に乗り込み、白黒をつけようとするが、結局裁判に負け、周囲の目を気にして外出もできない。唯一の味方であるジョーも二人の間を疑っていると知り、カレンは打ちのめされる。マーサはカレンを友人として以上に愛しており、子供の嘘は知らず知らずに真実を語っていたのだと告白する。絶望したふたりのところへ老女が現れ、子供が嘘をついていたことが判明したので、謝罪させてほしいと申し出るが、ふたりはそれをきっぱりとはねつる。そして、さらに大きな悲劇が。
子供を徹底した悪役にするのは簡単だが、そうせずに、運命の歯車が狂った不幸として描いているところが巧みである。今なら同性愛がこれほど非難されたりしないだろう。
カレンの恋人ジョーを演じたジェームズ・ガーナーは一九七〇年代にTVの探偵ドラマ『ロックフォードの事件簿』に主演していた。
噂の二人/The Children’s Hour
1961 アメリカ/公開1962
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘプバーン、シャーリー・マクレーン、ジェームズ・ガーナー、ミリアム・ホプキンス、フェイ・ベインター、カレン・バルキン、ヴェロニカ・カートライト