第709回 クワイエットルームにようこそ
平成二十年四月(2008)
飯田橋 ギンレイホール
三木聡監督の『イン・ザ・プール』で精神科医伊良部先生を快演した松尾スズキが自作の小説を脚本にし監督したのが『クワイエットルームにようこそ』であり、精神病院の女子隔離病棟が舞台となっている。松尾スズキは今回は出演していない。
内田有紀演じる明日香はある日、病院のベッドで拘束された状態で目を覚ます。どうしてここにいるのか、記憶が曖昧で、よくわからない。職業は週刊誌のライターで、八百字のコラムを明日までに書かねばならず、追い詰められて、酒で睡眠薬を飲んで、同棲しているTV放送作家の鉄雄と大喧嘩したことをおぼろげに思い出す。飲んだ睡眠薬が大量であったため、自殺を疑われ、今、精神病院の隔離病棟で拘束されているのだ。
ようやく鉄雄が面会に来る。ベッドの明日香を見て「レクター博士っぽいね」というせりふ、いきなり笑える。鉄雄は放送作家でありながら、バラエティ番組に出演し、ズボンを降ろして尻を出すキャラクター。演じる宮藤官九郎がほとんど鉄雄と重なる。
明日香は簡単には退院できず、他の入院患者たちと交流しながら、自分の人生を振り返る。高校の学園祭で『オズの魔法使い』のドロシーを演じたのが唯一の大切な思い出。TVのお笑い番組を見て大笑いするのが好き。馬鹿な連中とばかり付き合い、ひたすら飲んで騒いでいた頃、真面目なサラリーマンと結婚するが、あまりに面白みがなさすぎて、結局別れて、風俗店で働いているときに放送作家の鉄雄と出会い、同棲し、風俗の取材を受けたことがきっかけで週刊誌に原稿を書くようになった。その場その場で適当に楽しく生きていて、物事を深く考えたりはしない。隔離病棟の患者たちはみんな重いものを背負っている。そして、明日香もまた自分が抱えている問題にじわじわと直面する。
患者たちが蒼井優、中村優子、大竹しのぶ、筒井真理子他。真面目な元夫が塚本晋也、鉄雄の軽い舎弟が妻夫木聡。『カッコーの巣の上で』のルイーズ・フレッチャーを思わせる厳格な看護婦をりょうが演じる。伊良部先生のようなふざけた医者は登場しない。
クワイエットルームにようこそ
2007
監督:松尾スズキ
出演:内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう、平岩紙、中村優子、高橋真唯、箕輪はるか、庵野秀明、平田満、徳井優、峯村リエ、塚本晋也、妻夫木聡、筒井真理子、馬渕英俚可、大竹しのぶ