川島怜子「袋の鼠」

袋の鼠

 
川島怜子

「彦左衛門、なんとか出来ぬものか!」
珍しく語気を強めた甘利は眉間に皺を寄せ、博多奉行・茨彦左衛門に迫った。
「西の早良より山賊の杉一味、南よりは大宰府の粕屋遠江守政衝大軍、そしてこの彦左衛門が、二神山から三日月を抜け箱崎を背後を襲えば如何かと」
甘利は少し腕組みをした、
「それだけでは生温い!米一丸一党は小笠原流弓術皆伝の強者揃いときく。箱崎松原に籠られれば、近づくのは容易ではないぞ」
茨彦左衛門は表情を動かずに、
「仰せの通りにはございますが―」
「言葉あれば遠慮いらん申せ」
「弓を使えなくすれば良いのでござりましょう」
腕組みをほどいた甘利が、
「如何様な手段で?」
声を落として聞いた。
すかさず彦左衛門が、
「竹若勘九郎屋敷に宿泊中の米一丸一党に酒席もうけます、その間に遊女・村雲に弦にたっぷりと米の研ぎ汁を塗りこませれば…」
「さすれば、どうなる?」
甘利は気が急いていた。
「夜が明ける前に鼠が弦を齧ってございましょう」
「でかした彦左衛門、善き策じゃ!」
彦左衛門は慇懃に両手を畳に突き、目を伏せた。
「そして葦屋浦の合戦が終わり、原田種直殿の後詰めも間に合えば」
「万に一つの狂いもなかろう。まだかの地に源範頼と義経両名は着いておらぬと聞くぞ、彦左衛門」
「鵯越の如く戦上手の義経殿とはいえ、馬が使えぬ壇之浦は逆落とし…とはいかぬご様子で」
その言葉に二人で高笑いをした。

(文字数579字)

合評会のトップページ