
「のらくら同心 こぼれ話」
「のらくら同心手控帳」シリーズの著者である時代小説家、瀬川貴一郎さんによる、創作のうら話をご紹介します。
作品世界をより身近に感じられ、登場人物たちへの親しみも一層深まることでしょう。
第2回

第1回
Kindle版「のらくら同心手控帳」シリーズ
『のらくら同心手控帳』 (歴史行路文芸文庫) Kindle版
下手人との知恵くらべ。俺に解けぬ事件はない!心優しき同心が活躍する、謎解き連作捕物帳です。
定町廻り同心だった父の跡を継いで十年。
いまだに独り身の雨宮雪之介は、同じ八丁堀の組屋敷に住む夏絵に叱られながらも、何かと世話を焼かれています。
仲むつまじいふたりの様子に、老岡っ引の金次は「とっとと嫁にもらってやれ」と雪之介をつつきますが、当の夏絵は「嫁見習いのために出入りしているだけ」と言い張り、なかなか首を縦に振りません。
「舅殺し」「狐火」「柊の墓標」「島帰りの愛」「音の裏切り」の5話を収録。
『銀嶺の鶴: のらくら同心手控帳[二]』 (歴史行路文芸文庫) Kindle版
町廻り同心の雨宮雪之介は三十代半ばの独り者で、そろそろ身の振り方を考える時期に差しかかっています。組屋敷で暮らす夏絵とは互いに悪くない仲ながら、雪之介の優柔不断さに、老岡っ引の金次はやれやれと首を振っています。もっとも夏絵も、「嫁見習いの奥義をきわめるまでは祝言を挙げない」と言い張るため、周囲を余計に惑わせていました。
そんな折、雪之介は駒込の書画骨董店「ともえ堂」を訪れます。店主の周五が首を絞められ、掛け軸を下敷きにして殺されていたというのです。掛け軸は、岡川幻如作の名品「銀嶺の鶴」。盗みに入った犯人との争いに見えなくもありませんが、雪之介はどうにも違和感を覚えます。身内の関係者が絡んでいるのではないかと疑わずにいられません。
絵の才能を見込んだ周五が引き取った若者の郁。二十年来、店に仕えてきた女絵師の美里。ふたりの存在がどうにも気にかかり、雪之介は真相を探り始めます。
「居待月」「銀嶺の鶴」「男の約束」「雪割草」「父ちゃんへの離別状」の5話を収録。
『蛍火の里: のらくら同心手控帳[三]』 (歴史行路文芸文庫) Kindle版
町廻り同心の雨宮雪之介は、ある事情から与力・前島兵助に高級料亭〈佐倉〉でもてなされることになり、隣家の夏絵も同行することになりました。気の置けないふたりへの前島の心遣いでした。
上品な料理を楽しんでいると、主の万之助に代わり挨拶に訪れた料理人のお弓が現れます。雪之介は、その女性が二十年前に離れ離れになった幼馴染で、初めて恋心を抱いた相手であったことに気づき、胸が高鳴ります。夏絵も、ふたりの昔話を静かに聞いていました。
しかし、数日後、老岡っ引の金次が駆け込み、「料亭〈佐倉〉の主・万之助が殺された」と告げます。突然の知らせに雪之介は愕然とし、お弓の身を案じて不吉な予感にとらわれるのでした。
「逆さ水」「天の川」「見知らぬ女房」「風来坊の置き土産」「蛍火の里」の5話を収録。
『化身の鯉: のらくら同心手控帳[四]』 (歴史行路文芸文庫) Kindle版
如月八日、名残り雪の気配が漂う朝、定町廻り同心・雨宮雪之介のもとへ奇妙な知らせが届きます。岡っ引の金次によれば、四谷伝馬町の呉服商・千歳屋に幽霊が出るというのです。
その幽霊騒動は、半月前に千駄ヶ谷の鯉沼へ身を投げたお民と関わりがあるとも言われていました。お民は、三ヶ月前に千歳屋へ婿入りした千之助に裏切られたと感じ、入水したと推測されています。ふところから見つかった遺書にも「千之助さんを失っては生きていけません」と記されていたため、恨みが残ったのではと囁かれていました。
しかし、千之助はお民とは客と店の女の関係に過ぎないと主張し、主人の茂兵衛も誠実な千之助を信じています。そんな折、千歳屋ではさらなる不可思議な出来事が起き、幽霊騒ぎはいよいよ深まります。
雪之介は怪談を信じず、誰かが企てた仕業と見立てて探索を始めますが、思わぬ事態に巻き込まれていきます……。
「闇夜の虹」「優しさの背中」「夏絵神隠し」「化身の鯉」の4話を収録。
『蜉蝣の宴: のらくら同心手控帳[五]』 (歴史行路文芸文庫) Kindle版
「このさきどんなことがあろうと、あなたを離しはしません」
雪之介は夏絵を抱きしめました。拐かしから救い出して以降、幾つかの難事件を乗り越え、ふたりは結納も済ませ、いよいよ祝言を待つ段となっていました。
そんな折、誠太郎が染付師の清四郎を伴って訪れます。夏絵の祝言で着る打掛の下絵を見せるためでした。その出来栄えに感心した夏絵は、父・彦右衛門にも見せたいと、清四郎を実家へ案内します。
縁側に残った雪之介に、誠太郎は“耳寄りな話”を告げました。十手を笠に着て裏で悪事を働く岡っ引の捨吉が、どうにも怪しい動きをしているというのです。往診帰りに土左衛門を見つけた誠太郎は、検死に立ち会う捨吉の不自然な振る舞いに疑念を抱きました。
強引に死骸を検めると、明らかに人為的な無数の傷がありましたが、捨吉は岩や魚の仕業だと主張して譲りません。十手を預ける同心・室井紋次郎と、何か良からぬ企みがあるのではないか――雪之介の胸に不穏な影が広がっていきます。
「あわせ鏡」「淡雪の蝶」「蜉蝣の宴」「母のわかれ道」の4話を収録。
『山陰の家: のらくら同心手控帳[六]』 (歴史行路文芸文庫) Kindle版
「熱海の湯にでも浸かってこい」
与力の前島兵助に送り出された、新婚の雪之介と夏絵。
半月の休みをもらい、岡っ引の金次夫婦を連れ立って、温泉湯治旅に出た一行だったが、またしても事件に出くわしてしまう。
到着した翌日、来宮神社へ参拝した雪之介と夏絵は、痩せ気味で抜けるほど色の白い、瓜実顔の女とすれ違った。
(血の匂いがしなかったか……)
雪之介は不穏を感じながら境内を歩いていると、楠の大木の根元に人が倒れているようだ。
仰向けになった二十歳すぎの女の胸に、出刃包丁が突きたっているではないか。
ここは熱海で、縄張りの江戸とは違うし、せっかくの新婚旅を邪魔されたくはない。
すぐに代官所から若い役人の馬淵孝太郎が出張ってきたものの、どうにも頼りになる気配がない。
金次は金次で、つい探り癖が出てしまい、近所を聞き込む始末。
そうこうしているうちに、馬淵が相談にやって来て……。
「山陰の家」「ふたつの顔」「蜻蛉の墓」「死に土産」の4話を収録。
「のらくら同心手控帳」登場人物
雨宮雪之介……南町奉行所の定町廻り同心。周りから「のらくら」と呼ばれる、三十六歳の好男子。
夏絵……同心頭・山本彦右衛門の一人娘。毎日雪之介の家に通い、身のまわりの世話をする美人。
月岡誠太郎……小石川養生所に勤める医者。ぶっきらぼうで愛想はないが、信頼できる腕利きの男。
金次……雪之介の父親の代からつかえている岡っ引。親と子ほどの年の差がある。
前島兵助……少し厄介と思いながらも、雪之介の才能を高く評価している与力。
